ことば
誤用しがちな日本語10選|本当の意味の答え合わせ
会話の中で、ふと「あれ、これって本当はどういう意味だったかな」と感じる言葉があります。多くの人が日常で使うのに、本来の意味と少しズレた使い方が広がっている表現。
ここで「本来の意味」とするのは、辞書や調査での整理を指していて、別の使い方をしている人を責めるためのものではありません。言葉は変わっていくものなので、答え合わせというより「いまの立ち位置を確かめる」くらいの気持ちのものです。
この記事でわかること
01「役不足」「敷居が高い」──意味が反対になる5語
まずは、本来の意味と、現代の用法が逆になっていることがある言葉から。こうした語が要注意なのは、間違って受け取られても会話が一見成立してしまい、ズレに気づきにくいからです。
-
役不足
本来は「与えられた役が、自分の力量に対して軽すぎる」という意味。「私には役不足です」と謙遜のつもりで使うと、本来は「もっと大きな役をもらえるはず」という主張になってしまいます。文化庁「国語に関する世論調査」でも、本来とは逆の「力量が役に対して不足」の意味で理解している人が多いと報告された語のひとつとされています。謙遜したいときは「力不足」「私には荷が重い」と言い換えると、行き違いが起きにくくなります。
-
敷居が高い
本来は「不義理や負い目があって、その家を訪ねにくい」という意味。たとえば長く連絡を取らなかった相手の家に行きづらい、といった場面で使うのが元の用法です。「高級なお店に入りにくい」「初心者にはハードルが高い」という使い方は、近年広く使われるようになった新しい用法とされます。後者の意味で使う人のほうが多いという調査結果もあり、誤用というより用法が二つに分かれつつある段階と見ることもできます。
-
確信犯
本来は「自分の信念に基づいて行う、政治的・思想的な犯罪行為」を指す法律用語。「悪いとわかっていながらやる人」という意味で使われることが多いものの、これは本来の意味とは異なります。とはいえ、後者の意味は日常会話にすっかり定着していて、辞書によっては新しい意味を併記する例も見られます。
-
煮詰まる
本来は「議論や検討が十分に進んで、結論が見えてきた状態」。料理で煮汁が減って味が決まっていくイメージから来ています。「考えが行き詰まった」という意味で使うのは、現代の用法のひとつとされます。会議で「だいぶ煮詰まってきましたね」と言うと、人によっては正反対に受け取るおそれがあるため、「結論に近づいた」のか「行き詰まった」のか、ひと言添えると安全です。
-
なし崩し
本来は「物事を少しずつ片づけていく」という意味。漢字では「済し崩し」と書き、もとは借金を少しずつ返済する意味合いだったとされます。「うやむやのまま進める」という使い方は、現代でよく使われる別の意味合いです。「なし」を「無し」と取り違えたことが、後者の意味が広まった背景にあるという見方もあります。
02「情けは人のためならず」──意味が違って解釈されがちな3語
続いて、意味の取り違えが多いとされる言葉を3つ。いずれも「ならず」「置けない」「棹さす」といった、現代では使う機会の少ない言い回しが含まれていて、字面から推測すると逆の意味に転びやすいのが共通点です。
-
情けは人のためならず
本来の意味は「人にかけた情けは、巡り巡って自分のもとに返ってくる」。ここでの「ためならず」は「その人のためにならない」ではなく「自分のためでもある」という含みです。一方で「人に情けをかけるのは、その人のためにならない(甘やかしになる)」と解釈する人も一定数いるとされ、文化庁の調査でも両方の解釈が拮抗した年があると報告されています。
-
気が置けない
本来は「気を使わなくていい、打ち解けた関係」という意味。「気が置けない友人」は、遠慮のいらない仲の良い相手を指します。ところが「油断できない、気を許せない」という、ほぼ逆の意味だと取られているケースが、調査でも報告されています。ほめ言葉のつもりが警戒の言葉に聞こえかねないので、誤解を避けたいときは「気の置けない」よりも「遠慮のいらない」と言い換えるのが無難です。
-
流れに棹さす
本来は「流れに沿って、勢いをつける」という意味。棹(さお)を川底に突いて船を進める動作から来ていて、追い風に乗るようなニュアンスです。「流れに逆らう」「物事を妨げる」という意味で受け取られているケースが少なくなく、本来とは反対に解釈されやすい代表例とされています。
03「全然」──実は誤用じゃないかもしれない2語
最後に、誤用と思われがちだけれど、実は古くから両方の使い方があった言葉を2つ。「正しい/間違い」の線引きそのものが、時代によって動いてきた例です。
-
全然
「全然大丈夫」「全然平気」のように肯定的な文脈で使うことを「誤用」と感じる人もいますが、明治・大正期の近代の文献には肯定で使われた例も見られます。夏目漱石らの作品にも肯定の用例があるとされ、もともと打ち消し専用の語だったわけではないようです。「打ち消しと一緒に使う」という決まりが広まったのは、戦後の規範意識が影響しているとされます。とはいえ改まった文章では、いまも打ち消しと合わせるほうが落ち着いて見えます。
-
ら抜き言葉(食べれる・見れる)
本来は「食べられる」「見られる」が文法的に正しいとされてきましたが、「可能の意味」を「受け身・尊敬」と区別しやすくする実用的な変化として、辞書類でも併記されつつあります。「来られる」が可能・受け身・尊敬の三つを兼ねてしまうのに対し、「来れる」なら可能だけを言い分けられる、という合理性が指摘されています。話し言葉では急速に広がっていますが、書き言葉や公的な場面では「ら」を入れる形がいまも標準とされています。
言葉は「正しい・間違い」より、「相手にどう届くか」で考えると、ぶれにくくなります。
04意味を知ったあとに、どう使うか
誤用しがちな言葉を、たった1日で使い分けられるようにする必要はありません。むしろ、意味を知ったあとに大事なのは、「相手に伝わる形で使えているか」を見直すきっかけになることです。せっかく本来の意味を覚えても、相手が別の意味で受け取れば、会話はすれ違ってしまいます。
「役不足」「敷居が高い」のように、意味が反対に取られかねない言葉は、目上の人や仕事の場面では避けて言い換えるのが安心。「力不足」「行きにくい」のように、ひと回りやさしい言葉に置き換えるだけで、行き違いはぐっと減ります。一方「全然」「ら抜き」のように、両方の使い方が広まっている言葉は、相手や場面に合わせて使えば、誤りとまでは言えません。くだけた会話では自然でも、提出書類やかしこまったメールでは標準的な形に寄せる、といった使い分けが現実的です。
言葉は時代とともに変わっていきます。今日「誤用」とされる使い方が、何十年か先には辞書の本文に載っている、ということも珍しくありません。「正しい意味を知っている」だけでなく、「いま、どう使われているか」を一緒に押さえておくと、会話のなかで言葉に振り回されずに済みます。
本記事の言葉の意味・用法に関する記述は、文化庁「国語に関する世論調査」や主要辞書類を参考にした2026年6月時点の整理です。言葉の使われ方は時代や場面によって変化します。最新の調査結果は文化庁の公式発表でご確認ください。
新しいクイズやコラムは、X と Threads でもお知らせしています。
