ウィンブルドンはなぜ全身白? 始まりは「汗を隠す」ためだった 教養・雑学
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ウィンブルドンはなぜ全身白? 始まりは「汗を隠す」ためだった


ウィンブルドンの中継をつけると、画面の中だけ時代が違って見えます。深い緑の芝の上で、選手はふたりとも全身白。ほかの大会ではウェアもシューズも年々カラフルになっているのに、ここだけは100年前の写真と同じ配色のままです。

あの白は、選手の好みでもスポンサーの都合でもなく、大会の規定です。しかも由来をたどると、テニスの技術とはまったく関係のない、ビクトリア朝の美意識に行き着きます。

01「ほぼ完全に白」、縁取りは1センチまで

現在の規定は「ほぼ完全に白(almost entirely white)」という言い方をします。白っぽければよいわけではなく、オフホワイトやクリーム色は白と認められません。

色を入れられるのは、襟や袖口などの縁取りだけ。その幅は1センチ以内と決められています。帽子もリストバンドも靴も白。プレー中に透けたり見えたりする下着まで白が求められ、2013年には靴底がオレンジ色だったロジャー・フェデラーが、次の試合から靴を替えるよう求められています。

見えるか見えないかの靴底まで測る徹底ぶりは、4大大会でここだけです。

02始まりは、汗を見せないための白

白の由来は、ウィンブルドンが始まった19世紀のイギリスにさかのぼります。第1回大会は1877年。ビクトリア朝と呼ばれるこの時代、人前で汗染みが見えることは、とりわけ社交の場では「はしたない」とされていました。

テニスは当時、上流階級の社交スポーツです。濃い色の服では汗がくっきり浮かびますが、白なら目立ちにくく、見た目にも涼しげに映ります。汗をかく競技だからこそ、汗を見せない色が正装になりました。19世紀の終わりごろには、白いウェアがテニスの事実上の決まりとして定着していたとされます。

あの白は、プレーのための色ではなく、体裁のための色として生まれています。

03時代がカラフルになるほど、ルールは白くなった

意外なのは、ルールの動いた方向です。ふつう、こうした古い決まりは時代とともにゆるみます。ウィンブルドンは逆でした。

白が単なる慣習だった時代を経て、1963年に「大部分が白(predominantly white)」という規定が明文化されます。カラフルな衣装をまとう選手が現れ始めた時期でした。1995年には文言が「ほぼ完全に白」へ改められ、さらに厳しくなります。テレビ放送が広まり、ほかの大会が色とスポンサーロゴであふれていく時代に、縁取りの幅まで測る細則を整えていったのです。

まわりの世界がカラフルになるほど、ウィンブルドンは白を締め直してきました。

白はもう、汗を隠すための色ではありません。ほかのどの大会とも見間違えようがない、この大会だけの画面をつくる色になっています。

04白と戦った選手たち

この規定を、すべての選手が歓迎してきたわけではありません。

派手なウェアで知られたアンドレ・アガシは、白の規定を嫌って1988年から3年間ウィンブルドンに出場しませんでした。のちに白いウェアで出場に転じ、1992年、初めてのグランドスラム優勝をほかでもないこの大会で果たします(デニムショーツと蛍光色で鳴らした選手が、です)。

あれほど細かい規定と、それでも出たい選手たち。もめごとの歴史そのものが、この大会の別格ぶりを物語っています。

05変わらないために、少しだけ変わる

その白にも、2023年、ひとつだけ例外がつくられました。女子選手に限り、スカートやショートパンツより丈が長くならない範囲で、濃い色のアンダーショーツの着用が認められたのです。生理中に白一色でプレーする不安を減らすための変更で、選手たちの声を受けて主催者が規定を改めました。

140年余り守ってきた白を、必要なところだけ静かにゆるめる。守るものと、変えるもの。その選び直しを重ねて、白い伝統は残ってきました。

決勝は7月の第2週末。画面いっぱいの緑と白のコントラストには、汗を隠したビクトリア朝から、縁取り1センチを測る現在までの時間が、そのまま映っています。

本記事はウィンブルドン選手権の服装規定にまつわる一般的な解説を目的としたものです。記載内容は大会主催者(オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ)の公表情報や各種報道をもとにした2026年7月時点の整理です。規定は変更される場合があるため、最新情報は大会公式サイトをご確認ください。

よくある質問

ウィンブルドンの白い服のルールはどれくらい厳しいのですか?
規定は「ほぼ完全に白(almost entirely white)」で、オフホワイトやクリーム色は認められていません。色を入れられるのは襟や袖口などの縁取りで、幅は1センチ以内に制限されています。プレー中に見える下着や、帽子・リストバンド・靴まで白が求められます。
なぜウィンブルドンだけ白と決まっているのですか?
19世紀のビクトリア朝時代、汗染みが人前で目立つことは望ましくないとされ、汗が目立ちにくく涼しげに見える白がテニスの正装として定着したためです。この慣習が1963年に「大部分が白」として明文化され、1995年には「ほぼ完全に白」へとむしろ厳格になりました。
白い服のルールに例外はありますか?
2023年大会から、女子選手に限り、スカートやショートパンツより丈が長くならない範囲で濃い色のアンダーショーツの着用が認められました。生理中の不安を減らすための変更で、全身白の原則が導入以来ゆるめられた数少ない例です。
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